ICH-E21_妊婦・授乳婦の臨床試験への組入れ

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July 24, 25

スライド概要

妊娠中や授乳中の女性が臨床試験に参加する必要性が高まっています。従来の医薬品開発では妊婦や授乳婦が除外されることが多く、これが有効性や安全性に関する情報不足を招いています。既に、妊娠・授乳中の女性を研究対象に含めることを推奨している国際的な取り組みやガイドラインが存在することを説明しました。

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SMO-CRCを経て病院CRCへ転職し、CRC歴20年 新人時代にGCP全文読んだ後、改訂の度に全文読み直すので、CRCの中ではGCPフリークス? 個人的な活動のため、プロフィール「では」名を伏せ、「スライド上」のみ公開 世のCRCに還元したい思いで、自身が作成した資料を、引用文献などから公開許可が得られる範囲内で無料公開

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ICH-E21 妊婦及び授乳婦の臨床試験への組入れ 2025/01/07 2025/07/24 全面改訂 聖路加国際病院 治験管理課 三宅絢野 本発表は、演者の個人的見解に基づくものであり、 演者が所属する聖路加国際病院の見解を示すものではありません。 本演題発表に関連して、開示すべき COI 関係にある企業等はありません

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はじめに ➢ この資料 • ガイドライン案和訳を利用 ✓ 「ICH E21:妊婦及び授乳婦の臨床試験への組入れ (案) 」に関する御意見の募集について 募集期間 | 2025年7月1日12時0分-2025年9月30日23時59分 • 総論は本資料に記載 ✓ 1. 序文 ✓ 2. 一般原則 ✓ 3. 倫理的な考慮事項 • • 各論は開発戦略のみ記載 (各論の詳細はガイドラインを参照) ✓ 4. 妊娠 ⇒ 4.1 開発戦略 ✓ 5. 授乳婦 ⇒ 5.1 開発戦略 免責事項 | 当資料に掲載されている情報の正確さには万全を期していますが、 当資料の情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切責任を負いません 適宜、英文の原文を参照していただくようお願いします 2

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背景 | 本ガイドライン外① ヘルシンキ宣言 ➢ ヘルシンキ宣言 §19, 20 | 弱者を除外することは格差を悪化させうることを認識する このため、適切な保護のもと、弱者のベネフィットを目的 としてその研究参加を促進する必要がある • 弱者は保護されるべきであるとされてきた • CIOMS 2016 | 概念を覆す最初の国際合意 [例 | 子供、体の不自由な成人、女性 (社会的 除外を正当とする十分な科学的理由がある / 肉体的に弱い立場にある人々、出産適齢期の のでない限り,健康関連研究の対象者に 女性、妊娠中および授乳中の母親を含む) 、 含まれなければならない. 囚人、階層構造の底辺にいる人々、経済的に • • • 排除は格差を悪化させる可能性があり、 恵まれない人々、社会的烙印を押された人々] 参加による潜在的な危険と排除による危険を 結果、これらのグループは臨床試験から完全に 比較検討しながら、適切な支援を提供した上で、 排除されることが多かった 脆弱な人々の公平かつ責任ある参加を推進する 脆弱な人々すべてをデフォルトで排除すること • 排除されてきた集団にも研究機会を拡大する で、特定の集団 (特に女性、子供および人種・ • 脆弱性は固定された状態ではなく (特定の集団 民族的マイノリティ集団) に対する最善の治療 を恒久的に脆弱な存在と見なすのではなく) 、 法に関するエビデンスの欠如が生じ、健康格差 時間、状況、特定の研究課題に応じて変化する が拡大していた 可能性がある (多様かつ動的な背景を考慮する) • 様々な背景を持つ人々が研究に参加する重要性 ヘルシンキ宣言2024年改訂の重要な点を一部改変 Helsinki Statement an ad hoc group of stakeholders, http://cont.o.oo7.jp/52pop/HelsinkiStatement_ja.pdf , 2024-12-24閲覧 http://cont.o.oo7.jp/52pop/HelsinkiStatement_18Oct24_final.pdf , 2024-12-24閲覧 3

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背景 | 本ガイドライン外② ICH-E8 (臨床試験の一般指針) E8 1997/7 E8(R1) 3.2.2.1 被験者の選択 一般に、妊娠可能な女性は、試験に参加する際には十分に 効果的な方法で避妊すべきである。 3.1.4.3 特別な集団 a) 妊婦における検討 一般に、妊婦は、妊娠時の使用を目的としていない医薬品 の治験からは除外されるべきである。 治験薬の投与中に被験者が妊娠した場合には、投与を問題 なく中止できるのであれば、治験薬の投与を中止すべきで ある。この場合には、妊娠、胎児、出生児の追跡評価を 行うことは重要である。同様に、妊娠中に使用される 医薬品につき妊婦が参加する臨床試験でも、妊娠、胎児、 出生児の追跡評価が非常に重要である。 b) 授乳婦における検討 薬物又はその代謝物の乳汁への排泄については、必要に 応じて検討すべきである。授乳婦が試験に加わった際は、 授乳されている乳児に対する薬物の影響についても観察 すべきである。 2021/6 4.3.3.1 妊婦での検討 妊娠中に使用される可能性のある医薬品 の検討は重要である。 妊娠中の女性ボランティアが臨床試験へ 組み入れられる場合、又は参加者が試験 の途中に妊娠した場合、妊娠とその結果 の追跡評価、並びにその転帰の報告は 必要である。 4.3.3.2 授乳婦での検討 医薬品又はその代謝物の乳汁への排泄は、 該当する場合及び実施可能な場合に検討 すべきである。授乳婦が臨床試験に組み 入れられている場合、通常、乳児に対す る医薬品の影響についても観察する。 4 https://www.pmda.go.jp/files/000156372.pdf , 2024-12-28閲覧 https://www.pmda.go.jp/files/000250244.pdf , 2024-12-28閲覧

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ICHとは ➢ ICH • 医薬品規制調和国際会議 • International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Useの略称 ➢ 歴史 • 1990年に発足し、日米欧の規制当局・産業界が創設メンバー • 2015年ICH改革によりスイス法人化 (各国の規制当局・国際業界団体に門戸拡大) • メンバー23団体、オブザーバー35団体 (2024年6月現在) ➢ 目的 国としての参加をマッピング (他に団体参加もある) • 共通のガイドラインを作成し、医薬品への審査等の標準化を目指すもの • 現在、70以上のガイドラインが整備され、薬事規制に取り入れられている 5 ICH Webサイト https://www.ich.org/ , 2025-07-24閲覧

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ICH-E21 | 妊婦及び授乳婦の臨床試験への組入れ ➢ 妊婦及び授乳婦の臨床試験への組入れ (2022/5) Inclusion of Pregnant and Breastfeeding Individuals in Clinical Trials • 2023年6月のICH管理委員会によるE21コンセプトペーパーの承認 を受け、E21ガイドラインは、妊娠中及び授乳中の人の臨床試験 への組み入れ及び / 又は維持を可能にするための世界的に認め られた枠組みとベストプラクティスを提供することを目指すもの である • 妊娠中及び授乳中の人の安全性、有効性、及び / 又は薬物動態に 関する十分に頑健なデータの収集を可能にするための原則及び 実践を網羅し、医薬品の使用に関する臨床上の意思決定 (例えば、 • 製品表示の改善) により良い情報を提供する 本ガイドラインは、規制当局、産業界、その他の利害関係者間の 共通理解を確立し、妊娠中及び / 又は授乳中の個人を臨床試験 及び医薬品開発計画全体に組み入れ、維持するための戦略及び 方法論を調和させる Further to the ICH Management Committee’s endorsement of the E21 Concept Paper in June 2023 the E21 Guideline seeks to provide a globally accepted framework and best practices to enable inclusion and/or retention of pregnant and breast-feeding individuals in clinical trials and will cover principles and practices to enable the collection of a sufficiently robust set of safety, efficacy, and/or pharmacokinetic data in pregnant and breast-feeding individuals which will better inform clinical decision-making in medicinal product use (e.g., improved product labelling). The guideline will establish a common understanding between regulatory authorities, industry, and other stakeholders and harmonise strategies and methodologies for enrollment and retention of pregnant and/or breastfeeding individuals into clinical trials and overall drug development plans. ※日本語訳はDeepL翻訳 https://www.ich.org/page/efficacy-guidelines , 2025-07-21閲覧 https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0126.html , 2025-07-21閲覧 6

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ICH-E21ガイドライン (案) 目次 1. 序文 5. 授乳婦 1.1 目的 5.1 開発戦略 1.2 適用範囲 5.2 Lactation 試験 1.3 背景 2. 一般原則 3. 倫理的な考慮事項 4. 妊娠 4.1 開発戦略 4.2 妊婦の臨床試験への組入れ 4.3 臨床試験における妊娠患者の募集 ならびに継続 5.3 授乳婦の試験への組入れ 5.4 参加者の募集と治験継続 5.5 授乳婦を対象とした試験に対する インフォームド・コンセント 6. 付録 付録1:添付文書における留意事項 付録2:妊娠中の参加者を含む臨床試験に おいて考慮すべき追加のアウトカム 4.4 妊娠中の参加者を対象とした試験 に対するインフォームド・コンセント 紫文字 当資料に記載している内容 7

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背景① 妊婦及び授乳婦への治療の必要性 ➢ 妊婦又は授乳婦の多くは… 新規 / 継続的 / 予防的な 治療を必要とする、 急性 / 慢性の医学的状態 にある 妊娠中及び産褥期に生じる又は悪化 する可能性のある身体的 / 精神的 健康状態を含む 妊娠中の生理学的変化 医薬品の薬物動態 (PK) 及び / 又は 薬力学 (PD) にも影響を及ぼす 可能性があり、妊婦における医薬品 の用量の変更が必要な場合がある 8

9.

背景② 治療に関する決定に必要なデータが不足 妊婦や授乳婦は臨床試験から 除外されることが多い 臨床試験に参加中に妊娠した人 は試験を中止することが多い 妊娠中及び授乳中に特有の情報が わずかである 医薬品使用のベネフィットとリスクに関する 治療に関する決定は情報を欠いたまま行われる 9

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背景➂ 妊婦及び授乳婦に潜在的な影響 ✓ 治療を避ける 治療を中断する ✓ 授乳を避ける ✓ 意図せず患者、 妊娠や児に有害な 治療を選択する 疾患の悪化、患者、妊娠や児に 対する悪影響を引き起こす ✓ 早期に授乳を 中止する ✓ 授乳するために 治療を中止する 後ろ向きの行動の結果が 公衆衛生に及ぼす 潜在的な影響は大きい 10

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参考 | 添付文書 ➢ 添付文書 9.5 妊婦 (選択は以下4つ) ① 投与しないこと ✓ 以下のいずれかに該当、かつ妊婦の治療上の有益性を考慮しても、投与すべきでない ・ ヒトでの影響が認められる ・ 非臨床試験成績からヒトでの影響が懸念される ② 投与しないことが望ましい ✓ 非臨床試験成績から、ヒトでの影響が懸念され、妊婦の治療上の有益性を考慮すると、 投与が推奨されない ✓ 既承認医薬品において「投与しないことが望ましい」と記載されている ③ 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること ✓ 当該医薬品の薬理作用、非臨床試験成績、臨床試験成績等から妊娠、胎児又は出生児への影響が 懸念されるが、「投与しないこと」及び「投与しないことが望ましい」のいずれにも当てはまらない ✓ 非臨床試験成績等がなく、妊娠、胎児又は出生児への影響が不明である ④ 「9.5妊婦」を設ける必要はない ✓ 非臨床試験で妊娠、胎児及び出生児への影響を認めない、かつ薬理作用からも影響が懸念されない場合 医療用医薬品の添付文書等の記載要領に関する質疑応答集 (Q&A) について 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課 事務連絡平成31年1月17日 令 和5年2月17日最終改正 11

12.

1.1 目的 頑健な臨床データの 生成を促進する 推奨事項を提供する • 妊婦又は授乳婦を適切に 臨床試験に組入れる • 臨床試験を継続させる • 医薬品の安全かつ有効な 使用に関するエビデンス に基づく意思決定を可能 にするため 12

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1.2 適用範囲 臨床試験 • 治験薬*の市販前及び市販後 の臨床試験 ✓ 一般集団を対象とした 適応症 ✓ 妊婦又は授乳婦を対象と した適応症 *ICH E6(R3)の注釈 製品 • 原則として、妊娠可能な人が 使用者として想定される全て の製品について考慮すべき • 妊娠中又は授乳中の治療に 対するアンメットメディカル ニーズが高い状況では特に 重要だが、これらに限定され ない 臨床試験薬 investigational product の用語は、 医薬品 (drug、medicine、medicinal product) 、ワクチン及び生物学的製剤と同義 とみなす 13

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2. 一般原則 ① 医薬品の使用 • 慎重に検討することを 推奨 • 非臨床試験~承認後の 使用を通じて治験薬の 開発計画に組み込むこと を推奨 使用に関するデータ • 非臨床試験及び臨床試験 を通じて取得するための 積極的な計画 (又はデータ を取得しない理由付け) は、 治験薬の開発戦略策定の 初期段階から行うべき 安全性の評価 • 胎児及び授乳中の小児 への潜在的な影響を 考慮する必要があるため、 複雑である 14

15.

2. 一般原則 ② 臨床試験のスポンサー • 妊娠中及び授乳中の当該医薬品の使用の安全性、用量及び有効性に関する 十分な情報を得た上での意思決定を支援するデータを生成するための戦略 を検討することを推奨 • 臨床試験への妊婦又は授乳婦の参加に関する計画 ✓ 治験薬開発のプロセスを通じて可能な限り早期に、必要に応じて規制当局と 協議することが望ましい • 妊娠中及び授乳中の試験参加者に対する試験手順の負担を軽減するため、 あらゆる努力を払うべき • 妊婦又は授乳婦を臨床試験に組み入れる / 組み入れる予定がある場合、 いかなる不当な影響や強制も避けることが不可欠 • 患者を含めた適切な利害関係者との早期の関与 ✓ これらの臨床試験の関連する側面すべてに取り組む機会を提供 15

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2. 一般原則 ➂ 臨床試験への組み入れを 検討する時 • 利用可能なすべてのデータに基づいて リスクとベネフィットを評価する • リスクが適切に軽減されていることを 確認する • 科学的に頑健なデータが得られるよう な試験を計画する 治験薬の使用に関する データの収集 • 市販後も続けるべき • 市販後の継続的な安全性モニタリング ✓ 承認前の臨床試験では十分な検討が 難しい特に稀な又は遅発性の転帰に 関する安全性シグナルの特定に役立つ • リアルワールドデータ (RWD) ✓ 妊婦又は授乳婦の治験薬の使用状況 及び潜在的なベネフィット又はリスク の評価に役立つ可能性 16

17.

2. 一般原則 ④ 治験薬のベネフィット及び リスクに関するデータと評価 治験薬の継続的な評価 • • 様々な情報源 • ✓ 医薬品安全性監視のデータ、電子カルテ、医療 保険請求又は健康保険データベース、医薬品又は 疾患レジストリ、その他の情報源 (デジタル・ ヘルス技術など) など 必要に応じて添付文書に記載し、 更新することを期待 • 妊娠の転帰に関する添付文書中の いかなる記述も、データの頑健性と 限界を反映したもの • 既知である場合、適応となる集団に おける転帰のベースラインの発生率 を考慮したもの 妊娠と授乳 ✓ 母と児の関連付けなど、リアルワールドデータ の収集において特有の課題を有する ✓ 承認後のデータ収集のためのプラットフォーム を積極的に準備し、集団及び疾患に特有のリスク に関する背景情報を収集して、データの解釈を 支援することを推奨 17

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3. 倫理的な考慮事項 ① 治験審査委員会 / 倫理委員会 (IRB / EC) 妊婦及び授乳婦を 臨床試験に含めること • 倫理的である • 以下によって支持されている • 治験依頼者・規制当局の責任に加え、 IRB / ECは、試験実施のリスクが 予想されるベネフィットに対して 妥当であるか否かを評価する責任を 有する • 妊婦・授乳婦に関わる経験を有する IRB/EC の活用を考慮すべき ✓ ヘルシンキ宣言 ✓ ICH ガイドライン 特に ICH E6(R3) 及び ICH E8(R1) 18

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3. 倫理的な考慮事項 ② 試験の倫理的な実施を 確保するため 試験実施計画書 • 試験参加者・その妊娠、胎児 / 授乳 中の乳児に対する配慮が含まれる • 妊娠 / 授乳に関連する適切な安全 対策の必要性に関する追加的な検討 (試験実施計画書のリスク軽減措置及び 中止基準を含む) • インフォームド・コンセントに 関する追加的な検討 19

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4. 妊婦 | 4.1 開発戦略 ➢ 治験依頼者 • 妊婦を臨床試験に組み入れるアプローチが、臨床開発のステージ、 治療期間、対象となる適応症、利用可能なエビデンスの強さなど、 複数の要因に応じて変化する可能性のあるベネフィット及びリスク の慎重な評価を必要とすることを見込むべき • 臨床試験に組み入れる参加者の想定される妊娠三半期に応じて 異なる可能性がある 20

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参考 | 妊娠三半期 ➢ 妊娠三半期 [トリメスター] • 妊娠は連続的なプロセスですが、米国では妊娠期間を約3カ月単位で、 トリメスター [訳注:日本でいう妊娠初期、中期、後期にほぼ相当] という3つの期間に分けています 第1トリメスター [訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当] 妊娠 0週~14週 第2トリメスター [訳注:日本でいう妊娠中期にほぼ相当] 妊娠13週~28週 第3トリメスター [訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当] 妊娠25週~分娩 21 MSDマニュアル家庭版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home , 2025-07-23閲覧を改変(実臨床に合わせて週数に幅を持たせた)

22.

4.1.1 妊娠データの収集を計画する際に考慮すべき因子 ① ➢ 妊娠する可能性がある者に使用される可能性が高い場合 • 妊娠中の安全性、有効性、薬物動態及び胎児への曝露予測に関する データを収集することは、十分な情報に基づいた意思決定を支援する 上で重要である • データは可能な限り早期に、製品の開発にとって適切なタイミングで 収集されるべきである • スポンサーは、新しい情報やデータが得られ次第、開発戦略を評価し、 更新することが推奨される 22

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4.1.1 妊娠データの収集を計画する際に考慮すべき因子 ② ➢ データ収集の医学的必要性が特に高い状況 • 以下が含まれるが、これらに限定されるものではない ✓ 公衆衛生における危機的状況 ✓ 治療せずに放置した場合に、妊婦の健康、妊娠の転帰ないしは胎児 / 子供の健康に悪影響を 及ぼす可能性のある疾患 例:全身性エリテマトーデス (SLE) などの特定の自己免疫疾患 ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染症) ✓ 既存の治療法が妊娠時において満足できるものではない、あるいは妊婦ないしは胎児 / 子供 に高いリスクをもたらすことが知られている疾患 例:催奇形性又は妊娠喪失のリスク増大が知られている、又は疑われる • 開発戦略は、延期を正当化する理由がない限り、妊婦からのデータの早期入手 を目指すべきである • 治験依頼者は、開発の後期ステージで臨床試験への組み入れを可能にするために 必要なデータとエビデンスを生成する活動を積極的に進めるべきである 23

24.

4.1.2 妊婦を臨床試験に組み入れることを支持するために 必要なエビデンス ① ➢ 科学的根拠の重要度 (weight of evidence) のアプローチ • 妊婦を臨床試験に組み入れる又は妊娠した患者を臨床試験に継続して参加させる かの決定を支持するために必要なデータ及びエビデンスは、以下の事項を考慮 ✓ 適応症及び使用が予定される集団 ✓ 非臨床試験成績 ✓ 見込まれるベネフィット ✓ 治験薬の臨床薬理 ✓ 妊娠時の曝露による有害性に関する生物学的妥当性 ✓ 妊娠中のどの時期に治験薬が投与されるか ✓ 治験薬の新規性 (治験薬に類似した化学物質又は治療法からのデータ利用可能性) • 開発戦略では、臨床データの収集計画は、これらの因子の総合的な評価に 基づいて策定されるべきである 24

25.

4.1.2 妊婦を臨床試験に組み入れることを支持するために 必要なエビデンス ② ➢ 妊婦を対象とした試験に進む前 • 関連する非臨床試験の結果を評価する必要がある ✓ 標準的な生殖発生毒性試験 (DART) (ICH M3 及び ICH S5 参照) 生殖発生毒性試験:医薬品のヒトへの適用が生殖発生過程に及ぼすあらゆる影響を 明らかにするための情報を得る試験 ✓ 適切な場合には標準的な一連の遺伝毒性試験 (ICH S2 参照) 遺伝毒性試験:種々の機序で遺伝的な傷害を引き起こす可能性を検出するために 開発された試験法 ✓ 適切に適格性が確認された代替的な試験 ✓ 関連するモデリング • 妊娠していない患者を対象とした臨床データの収集も通常は必要となる 医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンスについて 薬生薬審発0216第1号,薬生安発0216第1号,令和5年2月16日 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001064535.pdf , 2024-12-28閲覧 25

26.

4.1.2 妊婦を臨床試験に組み入れることを支持するために 必要なエビデンス ③ ➢ 妊婦を含めた試験に進むことが適切であると判断した場合 • 以下のアプローチ / 行動を検討し、開発戦略に組み込む ✓ 進行中ないしは引続き行われる臨床試験への妊婦の登録 ✓ 進行中の臨床試験ないしは引続き行われる臨床試験において 義務的な避妊の要求をなくすこと ✓ 臨床試験期間中に妊娠した試験参加者の試験継続 ✓ 妊婦を対象とする特別にデザインされた試験の実施 26

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4.1.3 ベネフィット・リスク評価が好ましいものであることを 裏付けるために必要な全てのデータがまだ入手できない場合 ➢ 避妊の義務付けにもかかわらず妊娠が生じた場合 • 治験薬の継続の可能性について決定する必要がある • 継続は往々に適さないものであるが、例外が存在する可能性がある • 意思決定における考慮事項には、以下が含まれる ✓ これまでに得られた治験薬の妊娠中の安全性に関する情報 (非臨床及び臨床での知見) ✓ 参加者における妊娠及び基礎疾患を含んだ現在の健康状態 ✓ 治験薬の投与中止によるリスク (例:治療を受けた疾患の増悪の可能性、代替治療の 妥当性又は催奇形性、又は疾患が妊娠に及ぼす影響) ✓ 試験治療から得られる可能性のあるベネフィット (有効性 / effectiveness) の潜在的な 喪失 (例:基礎疾患の改善により得られる可能性のあるもの) • 治験薬の投与を継続することを最終判断とする場合には、治験参加者を 妊娠参加者として再同意を取得すべき 27

28.

4.1.4 得られているデータが妊娠に対する安全性の懸念を 示唆する場合 ➢ 治験薬が妊婦ないしは胎児に有害である可能性が示唆される場合 • 当初、妊婦を臨床試験に組み入れることは適切でないと結論づける場合がある • 一部の治験薬については、妊婦への投与のベネフィットが潜在的リスクを上回る場合 ✓ 標的疾患が重篤な悪影響を及ぼす状況 例 | 母親と胎児の両方に悪影響を及ぼすことが知られているマラリアなどの疾患 ✓ 使用可能な治療法が妊娠中の安全性の観点から問題となる状況 例 | SLE に対するメトトレキサート • 妊婦を含めた臨床試験をケースバイケースで検討できるかも知れない • 適切であるかどうかを判断する際には、ベネフィット・リスクの特徴を明らかにし、 潜在的なリスクを軽減できるかどうかを探るために、どのような追加データが必要か を検討することが不可欠である • 医療上の必要性や製品に関連する潜在的なリスクは、曝露の妊娠三半期ごとに異なる 可能性があることを考慮すべき 28

29.

4.1.5 産科的疾患に対する戦略 ➢ 産科的状態 (例 | 子癇前症又は早産) を対象とした治験薬の開発 • 治験薬の有効性、安全性及び用量を評価するために妊婦を対象とした 治験が必要 • 臨床開発を進め、市販承認申請を支援するために必要なデータは、 疾患に特有のものとなる 29

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5. 授乳婦 | 5.1 開発戦略 ① ➢ 授乳中の医薬品使用に関するベネフィット・リスクの考慮事項 • 複数の要因が関わる ✓ 母乳に含まれる治験薬の量 ✓ 児の吸収の程度 ✓ 患者ならびに授乳中の児に対する医薬品の潜在的なベネフィットとリスク ✓ 利用可能な代替治療 ✓ 母乳育児のベネフィット ✓ 利用可能な母乳育児の代替法など ➢ 本ガイドラインの 5.2 項及び 5.3 項 • 治験薬の母乳への移行に関する情報の入手 • 授乳婦に関連した治験薬の特性が明らかとなった後に、 授乳中の参加者を一般集団の臨床試験に組み入れること 30

31.

5. 授乳婦 | 5.1 開発戦略 ② ➢ 授乳婦における治験薬の使用に関する開発戦略 • 開発のステージ及び治験薬に関する既存の知識に合わせて策定すべき ✓ 乳児への治験薬の曝露は、母乳を人工乳又は他の栄養補給剤に置き換えることにより 回避できる ✓ 開発中にそのような曝露を許容するかどうか、許容する場合にはいつ許容するか 慎重に検討する ✓ 授乳婦を対象とした試験が開始されるかどうか、またいつ開始されるかを想定し、 必要に応じて、母乳育児中の小児に対する曝露レベル及び影響に関する情報を 可能な限り早期に収集するための試験を計画すべき ✓ 関連データをいつ、どのように入手するかを早期に計画する →治験薬の臨床開発戦略を最適化することができる ✓ 当該医薬品が妊娠中に使用されなくても、その医薬品が授乳や母乳育児中の乳児に どのような影響を及ぼすかを理解する必要性が生じる可能性がある 31

32.

5. 授乳婦 | 5.1 開発戦略 ③ ➢ 授乳に関するデータの収集方法 • 治験薬に関する利用可能な情報のレベルを考慮 例 | 物理化学的特性 母乳への移行の機序 出生前及び出生後の発生、幼若動物を対象の毒性試験のような非臨床試験データ 乳幼児の代謝経路による相違のような乳幼児の因子 • 小児患者における治験薬の使用など、他のデータソースを考慮することも可能 • 授乳婦のための医薬品の安全かつ有効な使用を確立するため ✓ 利用可能なデータと知識のギャップを早期に特定することに取り組むべき ➢ 治験薬の有効性に関する試験に参加した妊婦 • 授乳婦を対象とする試験に参加する意思がある可能性 • 参加者から得られたデータは、分娩直後の母乳育児に重要な情報を提供できる • 母乳育児をする意図のない参加者は、乳児曝露が生ずることを考えることなく 授乳婦の試験に参加することが可能 32

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5.1.1 治験薬の使用と授乳婦に関するエビデンス作成計画 ① ➢ 授乳に関するデータを収集するための戦略の策定のステップ ① 母乳中の治験薬濃度を特定する (母体の治療血中濃度に対して相対的に評価) ② 母乳中濃度のデータを用いて乳児の 1 日用量及び乳児の相対用量を推定する ③ 必要に応じて、乳児の曝露量、安全性及びベネフィットに関するデータを収集 ➢ 授乳に関する情報 • 母乳育児や治療に関する適切な助言を決定する上で共に重要 • 母乳中の治験薬の濃度を評価する Lactation 試験 (5.2 項) ✓ 母乳育児の乳児への影響の可能性を理解するのに役立つ可能性 ✓ 臨床薬理試験として実施するのが適切 ✓ 母乳を介して治験薬が小児に曝露されることを許容する試験により、 母乳中に存在する治験薬が母乳育児の児へ何らかの影響を及ぼすかどうかの評価が可能 33

34.

5.1.1 治験薬の使用と授乳婦に関するエビデンス作成計画 ② ➢ 母乳の組成及び量 • 授乳期間中に変化する可能性 • 授乳パターンや小児の年齢によって異なる可能性 • この変化は乳児が曝露される治験薬の量に影響を及ぼす可能性 →授乳の様々な段階にある者を含めることを奨励 • 初乳 (colostrum) 、前乳 (foremilk) 、後乳 (hindmilk) の組成は異なる →母乳の薬物動態解析を計画する際には、これを考慮すべき 34

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5.1.2 非臨床試験における検討事項 ➢ 非臨床試験 | 治験薬の授乳による曝露に関するデータを生成するために 用いる場合もある • ICH S5 | 出生前及び出生後の発生に関する標準的な PPND 試験 ✓ 妊娠中及び授乳中の子動物を曝露させる ✓ 新生子動物に対する治験薬の影響 (例:新生子動物に対する有害作用) ✓ 乳汁分泌に対する影響 (例:乳質及び乳量) ✓ 新生子動物に対する潜在的なリスクを特徴づける情報を提供する ✓ 課題は、観察された新たに生まれた子動物への影響が、妊娠時の曝露か、あるいは授乳育児での 曝露のいずれかに関連しているかの理解について →これを区別するために、幼若動物への直接投与による幼若毒性試験を用いて、潜在的なリスクを さらに特徴づけることができる (ICH S11 参照) • ICH S5 | 適格化又は検証された代替試験法 ✓ • 授乳期の曝露データを得る PBPK モデリングなどのモデリング技術 ✓ ICH M15 | 治験薬の母乳中濃度、及びその後の乳児の曝露、吸収、代謝についての洞察 35

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参考 | 米国 | PRGLAC ➢ 妊娠中および授乳中の女性に特化した研究に関する タスクフォース (2017-2021) Task Force on Research Specific to Pregnant Women and Lactating Women (PRGLAC) • 21st Century Cures Actに基づき設置 • PRGLACからの勧告リスト (2019/6/7) 1. 臨床試験の議題に妊娠中および授乳中の女性を含め、 統合する Include and integrate pregnant women and lactating women in the clinical research agenda 10. 臨床研究に妊娠中および授乳中の女性を含めるために、 プロトコル開発と研究デザインに積極的なアプローチを 導入する Implement a proactive approach to protocol development and study design to include pregnant women and lactating women in clinical research ※日本語訳はDeepL翻訳 36 https://www.nichd.nih.gov/about/advisory/PRGLAC , 2024-12-29閲覧

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参考 | EMA | ConcePTION ➢ 妊娠中および授乳中の薬の安全性をよりよく監視し、 伝達するためのエコシステムの構築 (2019/42024/12/31) Building an ecosystem for better monitoring and communicating of medication safety in pregnancy and breastfeeding • ConcePTIONの最終的な目標は、妊娠中および授乳中 の薬剤の安全性に関するエビデンスに基づく情報を、 効率的かつ体系的で倫理的に責任のある方法で提供 できる、信頼できる生物医学的エコシステムを構築 することである情報は、医療提供者と患者の双方が 同様に利用できる形で提供される The ultimate goal of ConcePTION is to create a trusted biomedical ecosystem capable of providing evidence-based information on the safety of medications during pregnancy and breastfeeding in an efficient, systematic and ethically responsible way. The information will be provided in a form that is usable by both healthcare providers and patients alike. ※日本語訳はDeepL翻訳 37 https://www.ihi.europa.eu/projects-results/project-factsheets/conception , 2024-12-29閲覧

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参考 | CIOMS・WHO | 国際倫理指針 ➢ 人間を対象とする健康関連研究の国際的倫理指針 (2016) International Ethical Guidelines for Health-related Research Involving Humans • 妊娠可能女性の参加 Inclusion of women of child-bearing potential • 生物学的に妊娠可能な女性を臨床研究から除外する ことを一般的な原則とすることは正しくない. 当該女性集団についての研究による新たな知識が 得られる可能性が奪われてしまうからである. このことは,女性の自己決定権に対する侮辱である. A general policy of excluding from clinical studies women who are biologically capable of becoming pregnant is unjust in that it deprives them of the benefits of new knowledge derived from these studies. It is also an affront to their right to self-determination. https://cioms.ch/wp-content/uploads/2017/01/WEB-CIOMS-EthicalGuidelines.pdf , 2024-12-29閲覧 CIOMS, 訳:栗原千絵子, 齊尾武郎, 監修:渡邉裕司. 人間を対象とする健康関連研究の国際的倫理指針. 臨床評価. 45巻4号. 2018, 745-862, https://cioms.ch/wp-content/uploads/2019/07/Japanese-Translation-CIOMS-Ethical-Guidelines-2016.pdf , 2024-12-29閲覧 38

39.

参考 | WHO | ガイダンス ➢ 臨床試験におけるベストプラクティスのガイダンス (2024/9/25) Guidance for best practices for clinical trials 2.1.3 適切な臨床試験の対象集団 Appropriate trial population • 臨床試験から通常除外される集団 (明示的または暗示的な除外) の具 体例としては、妊娠中および授乳中の女性、乳児および小児、 高齢者が挙げられる。この慣行は非常に有害であり、除外の妥当な 理由が示されない限り、こうした人々は試験への参加対象とすべき である (例えば、深刻な安全性への懸念がある場合、特定の介入に対 する禁忌がある場合、または試験が対象とする健康問題のリスクが 非常に低い場合など) Specific examples of populations that have typically been excluded from clinical trials (either explicitly or by implicit exclusion) include pregnant and lactating women, infants and children, and older adults. This practice has been hugely detrimental and such people should be eligible for trial enrolment unless a valid justification is provided for their exclusion (for example, if there is a serious safety concern or a contraindication to a certain intervention or if they are at very low risk of the health issue the trial seeks to address). ※日本語訳はDeepL翻訳 39 https://www.who.int/publications/i/item/9789240097711 , 2025-01-07閲覧

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最後に ➢ これまで • 大前提として、薬害を繰り返してはならない • 一方、妊婦・授乳婦であることだけを理由に医薬品の投与から遠ざけられてきた • これは医薬品の開発段階でのデータ不足であることは否めない • 「臨床試験=妊婦・授乳婦は除外することで胎児・母体を守ること」と信じて臨床試験を実施 • 海外では臨床試験への妊婦・授乳婦の組み入れは既に10年程前から議論されている ➢ 倫理的問題 • 妊婦・授乳婦を臨床試験から不当に排除することには倫理的問題があることを認識する • 臨床試験へのアクセスを制限している • 臨床試験の恩恵を受ける機会を奪っている • 女性の自己決定権の機会を奪っている ➢ 将来に向けて • • 臨床試験で必須であった避妊の規定を解除することに対する影響の考慮が必要である ガイドライン発出前から日本でどのように対応するかディスカッションを重ねることが 望ましい 40